こんにちは、カナダの高齢者ケアホームで介護士(Resident Assistant)として働いているTofu【@eigodekaigo】です。
介護の現場で、介護士が苦労することの1つに入居者の "入浴拒否 " があげられます。入居者の入浴を拒む理由は、恐怖や不安、体力の低下、痛みなど様々です。清潔を保持するためにも入浴は重要ですが、無理強いはできません。
入浴拒否の言い分例
「昨日、お風呂入ったからいいわ!」(入っていません)
「風邪気味だから、今日はやめておくわ!」(先ほどまで、「元気よ!」とおっしゃっていた)
「自分は汚れていないから、必要ないわ!」(髪がベトベトしています)
この記事では、入居者の拒否の原因を考察し、入居者の気持ちを尊重しながら適切な対応をして、少しでも入浴介助がスムーズにできるよう、筆者の現場体験を交えながら、まとめてみました。
介護の現場にとどまらず、ご自宅でご家族の介護にも是非役立ててもらえれば幸いです。
入居者が何かケアを拒否する時、カナダでは入居者の権利や尊厳をリスペクトする考えが根底にあります。
"They have the right to refuse (彼らには、断る権利がある)"
よく同僚達は、この言葉を用います。ただやはり入居者の衛生面を考えると、バランスが難しいところです。
カナダの介護施設で入浴拒否が起こる原因と対応
入居者が入浴を拒否する理由は、認知症の影響によって生じる場合もありますし、個人によっても様々です。よく見られる理由を下記にあげてみました。
身体の痛みや不調がある
関節痛や筋肉の痛み、慢性的な疾患や不快な体調の時は、入浴拒否に繋がります。前日によく眠れなかった時なども、身体がしんどくて、誰でも入浴は面倒になりますよね。
その日のレポートをしっかり読み、入浴を始める前に普段と違うことがないか情報を収集しておきます。本人からの健康状態のヒアリング、体温、血圧、食事量、歩行状態、睡眠時間、トイレの回数・・・・細心の注意を払って考察。同僚達と情報をシェアし、何か危惧することがあれば、ナースに相談して判断をあおいでも良いでしょう。
裸になることへの抵抗
他人の前で服を脱いだり、裸を見られることに抵抗を感じる人もいます。異性のスタッフの入浴介助に抵抗を感じる人も少なくありません。
できるかぎり、入居者のプライベートな空間を確保できるように配慮します。脱衣の手伝いも最小限にしたり、すぐにタオルで身体を隠すようにしてあげたりの工夫もします。安全上問題のない入居者には、カーテン越しから声掛けをしたりします。
同性スタッフの介助を希望される入居者には、できるかぎり希望に添えるようにします。いつもの入浴担当が休みの場合でも、異性でも気にならない入居者と担当を交代したりと臨機応変な対応を心がけています。
余談ですが、我々スタッフも異性入居者の入浴介助で、抵抗を感じる時もあります。密室の中で、いくら高齢者とは言え、異性と2人きりになるわけですから・・・・。
プロフェッショナルなマナーでケアに徹するに限りますが、どうしても慣れない場合は、遠慮なくボスに相談してみた方がいいと思います。同僚からアプローチの仕方を教わったりして、常に仲間と情報交換することは、とても自分自身のケアの勉強になりまよ!
入浴の必要性を感じていない
風呂場に足を運んだり、服を脱ぐなどの一連の流れが面倒くさくなったり、" 自分は汚れていない " と主張する入居者もいます。
認知症ではなくても、老化で記憶が曖昧になり、前回いつ入浴したかを覚えていない場合もあります。また臭いや汚れの状態にも敏感じゃくなくなってくるので、入浴が必要と感じない人もいます。
" 入浴 "という言葉を強くプッシュせず、別の理由で誘導します。例えば、「ずっと同じ服を着ているから、今日は着替えましょう!」とか「明日はドクターアポイントメントが入っているので、身体を綺麗にしておきましょう!」など、切り口を変えてみるのもおすすめです。
筆者の父は、生前風呂が大好きでしたが、老化と共に入浴を面倒がる人になってしまいました。「風呂に入って!」とは言わず、他人を配慮する父でしたので、「明日は親戚のおばさんが来るから、身だしなみを整えておいて!」に発言を切り替えたら、文句を言わず風呂に入ってくれ、とても効果がありました。
相手を観察して、どの言葉なら " 入浴 "のモチベーションにつながるかを、じっくり考えてみてください。
" 入浴 " が理解できずに不安
認知症の入居者などは、" 入浴 "と言う言葉が理解できず、戸惑いが拒否に繋がっているのかもしれません。
入浴している人の絵を描いたり、" 入浴 " と言う前置きなしに、直接風呂場まで談笑しながらエスコートして、お湯を入れたバスタブをお見せします。適温のお湯に手を触れさせてあげて、「前回も、喜んでいましたものね。今日もこれから、さっぱりしましょうね!」などと、声掛けしたりもします。
過去に入浴した記憶がない人は、お湯がはったバスタブを前に、これから何をされるのか、とても不安になります。ゆっくり穏やかに言葉がけをして、自分に身を委ねてくれる、安心できる雰囲気を作ってあげてください。室温やお湯の温度も気をつけて調整し、少しでもリラックスできる環境を整えることも重要です!
カナダの介護施設の入浴事情
施設によって、入浴スケジュールと担当人数は様々です。シフト中、ひたすら入浴だけ担当する人を分けている施設もあります。
筆者の施設は、1シフト8時間のレギュラー勤務の時は、1~2人の入居者の入浴を担当します。身体的レベルが重い人の時はリフトを使ったり、スタッフ2人以上で介助する時もあります。1人の入浴持ち時間は、部屋から部屋のエスコート時間も含めて30分なので、効率よく準備しないと、ゆっくり入居者がお湯に浸かってもらう時間が無くなってしまいます。
筆者は、その日のシフト開始時に、担当の入居者の健康状態を把握し、予めケアの隙間時間を利用して、タオルや新しい下着、ローション、シャンプーなどの入浴の準備をしておきます。
介護士の1日のスケジュールは別記事でも書いていますので、是非そちらもご覧ください。
脱衣の手伝いも、入居者のレベルによってです。基本は洗髪をしてあげて、手が届きにくい背中や足を洗います。頭から爪先まで観察し、すぐに異変があったらナースに知らせるようにしています。手の爪の手入れもしますが、基本足の爪カットは、糖尿病の人など慎重に扱わなくてはいけないので、フットケアナースが別に担当しています。
入浴介助は大変ですが、身の上話をしたりして、1番入居者との距離が縮まる時間でもあります。湯上りは、乾燥しやすいカナダですから、丁寧に全身にローションを塗ってあげたり、髪を整えてあげたり、限られた時間ですが、入居者にとって" 至福の時 " になるように心がけています。
入浴拒否の時の、介護士のNG対応まとめ!
頑なに入居者から入浴拒否があると、シフト全体のタイムスケジュールが崩れ、同僚の入浴担当時間にも迷惑を掛けたり、スタッフもストレスに陥いったり、焦りがちです。しかし、以下のようなことは絶対にNG行為です!
- 強い口調で、" 入浴 " を口にし、風呂場にエスコートしようとする
- 無理矢理、服を脱がそうとする
- 拒否して入浴させられなかったことを、レポートしないで黙っておく
カナダの施設で入浴拒否がある時の対応
コミュニケーションと理解、原因特定
入居者の拒否する理由を、コミュニケーションから探りだす。” 入浴 " に対する感情、抱えている不満や心配を理解を示す。体調がよくなれば大丈夫なのか、スタッフが代わったらいいのか、午前中じゃなく午後がいいのか・・・・原因を特定することが最初の一歩です。
特定した原因の改善
入居者の入浴を拒否した原因を改善します。ケアチーム皆で情報を共有し、スケジュールや入浴担当者の変更で改善可能なことは、試みてみるのも1つです。いきなり入浴から始めず、スポンジバス(清拭)で顔や手などを拭いてあげ着替え、服を脱ぐことから慣れてもらってもいいですよね。
入浴環境を整える
入居者が入浴が安全で快適と感じる環境の見直しもします。お湯の温度、室温、手すりなどの設置などして、不安を取り除く。風呂場までエスコートする際も、疲れやすい入居者や当日体調がすぐれない入居者には、車椅子でエスコートするようにもしています。
家族からの協力も得る
家族にも協力してもらい、入居者の入浴意欲を沸かせる。入浴の日に訪問してもらい、入浴の準備を手伝ってもらったり、電話の受話器口で入浴を家族からお願いしてもらうことも、時には効果的です。
介護士のスキル向上
入浴介助のスキルを向上させる。入居者の身体の負担を減らす洗い方や、効果的な言葉がけを身に付けることで、入居者の入浴満足度を高めるように努めます。
嫌な感情は認知症の方でも残ります。決して無理強いはせず、入居者に安心してもらいながら、入浴がリラックスできる場所だと認識してもらえるように頑張りましょう!
先日、家族、同僚、ナースと協力しあっても、ドアにしがみついてまで断固入浴拒否した入居者がいました。しかし、翌週は、抵抗することもなく湯に浸かり、なんどもなんども筆者に感謝してくれました。
「垢で死んだ者はいない」と言われるくらいですから、1回くらい入浴をスキップするのは仕方ありません。業務を遂行しようと余り力を入れ過ぎず、入居者との信頼関係を深めてみてください。そうすればスムーズに入浴介助もできるようになるかも知れません。
" 今日がダメなら、明日にしよう! "
入居者にも伝わるので、焦りは禁物です。頑張り過ぎない程度に、やっていきましょう!
大変光栄なことに " おすすめ介護ブログ " として、" MIRAISTEP "さんに紹介していただきました。これからも、みなさんの大切な人の " 介護 " が、カナダでも日本でも、より分かりやすく、よりスムーズに実践できるような記事を書いていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします!